第二部 気候風土適応住宅とは?

さて、適用義務がすべての住宅に課せられるようになる外皮基準に、どう頑張っても適合しない家があります。それは、土壁や木製建具を多く使っている住宅です。内外真壁の土壁には断熱材が入らない。木製建具の断熱性能は工業製品のサッシにはとても及ばない。
床下があいている石場建て、開口部がズラっと連なる縁側・・どれも「外皮性能」は高くありません。外皮性能とは「どれだけ閉じているか」をあらわす指標ですが、日本の家、特に関東以南の家は、自然に対して開いたつくりになっていて、夏は開放的に風を通して、冬は縁側を閉めてコタツにあたるなどしてこじんまりと暮らすのがあたりまえだったのです。
そのような家が「省エネでない」かというと、そうでもない、ということが、伝統木造の要素が多い新築住宅における室内環境の実測や生活実態調査から分かってきました。しかも、無垢の木を組んできちんと造った伝統木造住宅は、昔の新築が今、古民家として残っていることからもわかるように、長寿命。これは、生産廃棄エネルギーまで含めたライフサイクルエネルギーまで考えると、とても省エネなのです。
省エネ努力のために施行する建築物省エネ法の全面義務化が国会で可決された際には、このような事情を勘案して「外皮性能が低いからといって、伝統木造住宅が造れなくなるようになることがあってはならない」という附帯決議がなされました。この決議をもとにつくられたのが「気候風土適応住宅」という、外皮性能を適用除外するしくみです。
外皮性能を満たさなければ、なんでも適用除外になるかというと、そうではありません。「外皮性能を満たしようがない要素がある」あるいは「外皮性能を満たすことで、かえって損なわれる価値がある」と認められるものがそのような扱いになります。国の方で土壁、縁側、軒裏あらわしなど、15の要素を「外皮達成困難な要素」として位置づけた「ガイドライン」があります。
ガイドラインを読むと、伝統木造の要素をそのまま踏襲しているというだけでなく、その要素を採用する環境面、文化面での意義や次世代に継承すべき景観を創造しているという価値があることを意識して採用するという構えが大切であるようです。
サステナブル建築物等先導事業(気候風土適応型)という助成金事業が去年からはじまっています。その施行事例が気候風土住宅としてのどの要素を備えているのか、なぜその要素を採用してたのという意義を、外皮計算がNGとなる省エネ計算結果とともに添付して応募します。この事業は、募集、応募受付、審査、採択といったプロセスを通して、建築物省エネ法義務化に先立って、どのような建築物が「気候風土適応型」といえるか、実態やしくみの運用を考察することを目的としています。
第二部の講師である高橋昌巳さんは、内外真壁の土壁の家づくりに携わってこられています。内外真壁の土壁には断熱材を入れる余地はなく「外皮性能基準を満たすことのできない」建築事例の典型といえるもので、サステナブル建築物等先導事業でも採択されています。
高橋さんはそのようなご自身の例をもって、東京建築士会環境部会気候風土WGの長として、東京都が東京における気候風土適応住宅の認定基準を作成していくプロセスにおいて、議論のテーブルについています。そのようなお立場のお話を通じて、山梨における気候風土適応住宅について考えるヒントが、あるはずです。
八ヶ岳らしい家づくりには、南アルプスや八ヶ岳、富士山などを望む眺望、田園風景との調和、ガーデニングや家庭菜園への動線、近所の人との「とったりやったり」のある暮らし、豊富な森林資源を活用する薪ストーブなど、独特の気候風土要素があります。それらが、気候風土適応住宅のしくみとどのように関連づけられるかという主体的な視点で、ご参加いただければと思います。

高橋 昌巳(たかはし まさみ)
シティ環境建築設計 主宰
東京建築士会環境部会 気候風土WG主査