災害時の理想的な情報ツールについて考えてみました。
結論から書くと、普段使いのツールで、できるだけ対応するのが一番だと思います。災害対応で追われ時間のない時に、あたらしいツールの使い方をゼロから習得してもらうのは難しいからです。また日常的にアクセスがないと、情報も集まらないでしょう。とはいえ、平常時と災害時とでは求められる情報の質が違います。そこで、情報の扱い方を入力時と出力時とで分け、できるだけたくさんの情報を集めたい入力時のUIは変更を最小限にし、出力時にはマップやスケジュール帳をベースにした表示方法も選択可能にするのが理想だと思います。以下、わかりやすく説明します。
今年の2月、山梨を大雪が襲いました。特に、2回めの2月14日バレンタインデーの降雪は、甲府で110cmを記録し、120年に一度とも言われています。例年は積雪20〜30cm程度ですから、想定を遥かに超える大雪に大混乱が起きました。周囲を山に囲まれた山梨は他県から孤立し、自衛隊ですら入るのが困難な状態でした。行政による除雪作業もパンク状態で、地域が機能不全に陥った状態が何日も続いたのです。
幸いにして、電気と通信の途絶はほとんど無かったため、一般市民はお互いに情報交換しながら、自分たちでできることを進めました。集落の中の除雪をしたり、道路情報を共有することで、通れなくなってしまった道を迂回して、買い出しや安否確認に向かいました。
今回の大雪時の情報ツールとして、僕にとって最も役に立ったのはfacebookでした。他の大半の地域と同様、facebookは30代から50代のユーザーが多く、大雪の時の除雪や救援、買い出しなどの主要な担い手となる世代であったこともあり、活発な情報発信がありました。見知らぬ人とも繋がりがちなtwitterと違い、実際の友人とつながる割合が多いfacebookは、地域情報のやりとりに向いていると思います。また、LINEよりも開放的なところも良かったのでしょう。最近のmixiのことはよくわかりません ^_^; 。通常のタイムラインにも大雪情報は流れてきましたが、「山梨災害情報共有スペース」というfacebookグループには有益な情報が多く、本当にお世話になりました。この場を借りてお礼申し上げます。
緊急時だからといって、普段とは違う行動をしてもらうのは難しい
facebookグループが役にたったのには、いくつかの理由が考えられます。
1. 利用者が多く、豊富な情報の集積があった。
2. 内向きのつぶやきではなく、他人の役にたって欲しいという視点の情報があつまった。
3. 書き込みの冒頭に、何時の時点の情報なのかを記載するローカルルールが設けられた。
4. コメント欄で親情報の補足がなされ続けていった。
圧倒的に1.の要素が大きいです。実は災害当時、マップベースの情報共有サイトを立ち上げてくれた方たちもいたのですが、そちらへはあまり情報が集まりませんでした。地図上に災害情報が直感的にわかりやすく表示されるのは、一見便利そうに思えるのですが、そのサイトのためだけに情報入力をしなければならなかったのが難点でした。ITに慣れている人にとっては簡単に思えることでも、一般の人々にとって新たな利用法の習得と、その入力時間の捻出はハードルが高かったのだと思います。そもそも、そのサイトを訪れる習慣自体がないので、情報の集積には限界があります。ボランティアでそのサイトを立ち上げてくれた方たちにはとても感謝していますが、緊急時に普段とは全く違う行動をとってもらうのは、なかなか難しいものだと感じました。
とはいえ、情報が集まるfacebookグループにも数多くの欠点があります。時系列で情報が流れていくため、自分が必要としているものを見つけにくいのが第一。しかも、古い情報でも新しくコメントがつくと上に表示されてしまうため、いつの情報なのかがわかりにくくなってしまうのです。
特別なツールでは情報が集まらず、普段使いのツールでは調べにくい。この2つの状況を解決するには、特別なツールが、普段使いのツールから情報を自動的に吸い上げる機能を持てばよいのです。しかし、ここで問題となるのが、facebookがクローズなサービスだという点。オープンなtwitterと違い、ログインしないと閲覧できないfacebookは、外部のサイトからアクセスできないのです。技術的にできないわけではなく、実際にYahoo! Japanのリアルタイム検索では、facebookの書き込みの検索ができます。Yahoo! Japanとfacebookとで契約を交わし、データベースを開放しているからです。それはfacebookの経営的判断としては理解できますが、世界で最もユーザー数が多いサービスの社会的役割として、緊急時には開放して欲しいと思います。
緊急時に必要なもの
さらに言えば、日常時と緊急時とでは、情報に求められるものが違ってきます。具体的には正確な場所と時刻、情報の有効期限と緊急度といったものです。緊急時には、それらを入力するUIが追加表示されるのが良いでしょう。
普段、facebookの投稿で表示される写真からは、撮影場所のGPSデータであるGeoタグが消されています。これはfacebookの機能です。けれどもfacebook本体はちゃんとそれを保持していて、facebookユーザー個人のページで、「基本データ」の「スポット」の項目に行くと、写真が撮られた場所が地図上にマッピングされているのがわかります。投稿時にユーザーがOKしておけば、撮影場所の地図と撮影時刻(「◯時間前」といった相対時刻ではなく、何日の何時何分といった絶対時刻)が表示されるようになっていると、時間がなくて写真しかアップロードできなくても、必要最低限の情報を伝えられます。
情報の有効期限も重要です。例えば、事故車が道路を塞いで通行止めになっているとしましょう。その場面に遭遇した人がfacebookに投稿する時、既に警察やレッカー車などが到着していれば、ほどなく通行止めは解除される可能性が大です。だから数時間後には、その投稿は目立たない状態になっているのが望ましいでしょう。雪崩がおきて集落への道が通れなくなってしまった、などといった情報の場合、回復までに相当な時間がかかり、長い期間、人の目に触れる場所にあることが求められます。有効期限の判断が難しく、また判断を誤ることもあるでしょう。けれども、そういったパラメータを用意することは全くの無駄にはならないと思います。facebookグループの管理者が、有効期限の編集権限を持ち、状況に応じて上げ下げできると便利だと思います。
人の生き死に直接関係するような情報の場合は、緊急度を上げて多くの人の目に触れるようにし、ゴミ収集時刻の変更のような優先順位の低いことは、露出頻度を下げてもいいでしょう。そのような情報表示の自動調整こそが、facebookの得意とするところのはずです。この機能を実装し、APIの開放も行えば、facebookは世界からより尊敬され、欠くことのできない存在になるでしょう。是非、検討していただきたいと思います。